はじめて法律事務所で働く事務職員が最初につまずく「日常語と意味が異なる」法律業界用語

はじめて法律事務所で働く事務職員が最初につまずく「日常語と意味が異なる」法律業界用語 はじめて法律事務所で働く事務職員が最初につまずく「日常語と意味が異なる」法律業界用語
最終更新日:2026年02月27日

はじめに

法律事務所ではじめて働く新入職員にとって最も頭を悩ませるのは「言葉の壁」ではないでしょうか。
「善意」や「悪意」といった日常的に使う言葉が、法律の世界では全く異なる意味を持つため、指示が正しく伝わらない、あるいは書面の趣旨を読み違えてしまうというミスは、業界に入りたての方にとってはよくあります。
しかし、これらの用語は体系的に整理し、日常語とのギャップ(乖離)を論理的に説明することで、早期に定着させることが可能です。

本コラムでは、法律事務所の実務初心者が最も混乱しやすい用語まとめ、その違いについて解説します。

1. 意味が真逆・直感に反する用語(善意・悪意/みなす・推定する)

まずは、日常会話の感覚で解釈すると重大な誤解を招く、最も危険な用語群です。

・善意(ぜんい)/悪意(あくい)

日常では「良心的な心」「他者を傷つける意思」を指しますが、法律用語では道徳的な意味は一切含みません。単に「事実を知っているか否か」を指します。
用語 日常的な意味 法律実務上の意味 使用例
善意
(ぜんい)
親切心、良心 ある事実を「知らない」こと 事情を知らずに取引した「善意の第三者」
悪意
(あくい)
意地悪、害意 ある事実を「知っている」こと 事情を知った上で取引した「悪意の買主」

・みなす/推定する(すいていする)

どちらも「仮定する」ように聞こえますが、それを覆せるかどうかの法的強度が全く異なります。
用語 意味の強度 反証(反対の証拠)の
可否
解説
みなす 確定 不可 反対の証拠があっても法律上そのように扱われ、覆らない。
推定する 一応の判断 反対の証拠が出れば、その判断は覆る。

2. 手続の結論やプロセスに関する用語(却下・棄却/否認・抗弁)

・却下(きゃっか)/棄却(ききゃく)

どちらも「訴えが認められなかった」ことには変わりありませんが、その理由(門前払いか、中身の審査後か)が異なります。
用語 審査の段階 意味 イメージ
却下
(きゃっか)
形式審査 書類の不備や要件不足のため、中身の審理をせずに退けること。 門前払い
(戦いのリングに上がれない)
棄却
(ききゃく)
実質審理 主張に理由がないと判断し、訴えを退けること。 判定負け
(試合をして負けた)

・否認(ひにん)/抗弁(こうべん)

準備書面を作成する際、相手方の主張に対してどう反応するかを示す重要な区別です。
用語 反応の内容 具体的な態度
否認
(ひにん)
「違います」 相手が主張する事実そのものが嘘・誤りであると反論すること。
抗弁
(こうべん)
「そうですが、しかし」 相手の事実(A)は認めるが、別の事実(B)があるため、相手の結論にはならないと主張すること。
(例:金は借りたが(認める)、もう返した(抗弁))

3. 文書作成・読解における階層と時間の用語(及び・並びに/直ちに・速やかに)

契約書や法令を読む際に必須となる、接続詞と時間表現の厳密なルールです。

・及び(および)/並びに(ならびに)

英語ではどちらも「AND」ですが、日本語の法文ではグループの大きさによって使い分けます。
用語 階層レベル ルール
及び
(および)
小グループ
(最小単位)
併記する語句をつなぐ基本的な接続詞
並びに
(ならびに)
大グループ 「及び」でつながれたグループ同士を、さらに大きくつなぐときに使用。

・又は(または)/若しくは(もしくは)

こちらは「OR」の使い分けです。
用語 階層レベル ルール
又は
(または)
大グループ
(最大単位)
選択肢をつなぐ基本的な接続詞。階層がない場合はこれを使う。
若しくは
(もしくは)
小グループ 「又は」の中にさらに選択肢がある場合、小さいグループの方に使用。

・直ちに/速やかに/遅滞なく

すべて「急いで」という意味ですが、緊急度のランク付けがあります。
順序(緊急度) 用語 意味と法的拘束力
1 直ちに
(ただちに)
即時。一切の遅れが許されない。最も緊急度が高い。
2 速やかに
(すみやかに)
できるだけ早く。努力義務に近く、遅れても正当な理由があれば許容される場合がある。
3 遅滞なく
(ちたいなく)
事情が許す限り早く。合理的な理由があれば遅れが認められる。

4. 書類種別に関する用語(正本・副本・謄本)

事務職員がコピーを取ったり、裁判所へ提出したりする際に最も確認が必要な書類の種類です。

・正本(せいほん)/副本(ふくほん)

裁判所に訴状等を提出する際、「正本1通、副本〇通」といった指示を受けます
用語 役割 解説
正本
(せいほん)
オリジナルとしての効力 公的権限のある者が「原本」に基づいて作成し、原本と同じ効力を持つと認証したもの。
副本
(ふくほん)
写し(コピー) 正本の写し。主に相手方へ送付(送達)するために用いられる。

・謄本(とうほん)/抄本(しょうほん)

戸籍や登記簿を取得する際に区別が必要です。
用語 範囲 内容
謄本
(とうほん)
全部 原本の「全て」を写したもの。
(現在では「全部事項証明書」と呼ばれることが多い)
抄本
(しょうほん)
一部 原本の「必要な一部」のみを抜粋して写したもの。
(「個人事項証明書」など)

・判例(はんれい)/裁判例(さいばんれい)

弁護士が意見書や書面で引用する過去の裁判の呼び方です。
用語 裁判所 拘束力・重要度
判例 最高裁判所 最高裁判所が出した判断。後の裁判を拘束する極めて強い効力を持つ。
裁判例 下級裁判所 高等裁判所以下の判断。あくまで一事例としての参考扱いとなる。

まとめ

法律事務所での業務は、言葉の定義一つで結論が覆る世界です。
新人のうちは「善意」と聞けば「良い人」、「却下」と聞けば「負け」と単純に結びつけてしまいがちですが、その背後にある「事実を知っているかどうか」「形式不備か中身の判断か」という論理的な区分けを理解することが、プロフェッショナルへの第一歩となります。

最初は混乱するかもしれませんが、実務の中で繰り返し確認することで、自然と正確な使い分けが身についていくでしょう。

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